少女の旅
アリスとイカレ帽子屋が森のなかの道をてくてく歩いていると,木の上のほうから声がしました。
「よ〜ぅ,帽子屋。なんだい可愛い子つれちゃってさ。チェシャにもそれちょーだいよ」
アリスたちが声の主を探すと,すぐにそれは見つかりました。
声の主は,のんびりと木の上に寝転んで,アリスたちを見下ろしていました。
赤い髪に,黄色い瞳。首には幾重にも巻かれたリボンがあって,
鈴がひとつ括り付けてあります。そして頭には猫耳が…。
アリスは不安になりました。彼も危ない一族なのでしょうか。
だとしたら,厄介です。
「チェシャ猫かァ? 久々だっケ? 吸血癖はなおったのカ〜?」
「いやそれいつの話?! チェシャ吸血癖ないから!!!」
「いやぁそれほどでもないけド…? 僕的には自身アリかナ?」
「何?ほめてないから。ていうか初めて聞いたそのタイプの「いやぁ{以下略}」!!!」
声の主…というかチェシャ猫がすばやくつっこみます。斜め45度からです。斜め45度は無敵です。
チェシャ猫はつっこみっ子でした。零●くんとやり合えそうです。勿論別の意味で。
「は…話がかみ合ってない…!!!」
アリスがどん引きしています。
忘れてはいけない事実,イカレ帽子屋は呼び名の通りイカレているのです。
たいていの話はかみ合いません。
「駄目だわ。これじゃあ話がすすまない!!」
とうとうアリスが作業開始です。
「ねえ,貴方はだぁれ?」
「ちぇしゃはチェシャに決まっているだろ!?チェシャを見て分からないわけ?不思議の国の不思議な奴だね」
「むっ。何かムカつく。この赤色猫耳!!」
「ふん。チェシャは売られた喧嘩は買わないよ。面倒だし」
「そう,買わないほうがいイ? 気をつけなきゃァ駄目だっテ?
ところで面倒といえバ? 僕最近…」
「「いや,っていうかアンタは黙っとけ」」
アリスとチェシャ猫がつっこみます。見事にハモりました。
そしてアリスは問います。
「貴方は萌印の駄目な人?」
「なにそれ,チェシャは猫だよ? かみ殺されたいの?」
「あぁ,そうね。わたしも猫飼ってるの。ダイナっていうんだけどね……」
「……くすン?」
そして哀れな帽子屋は一人寂しく話題からはずされていました。
「あァ,僕ってなんて哀レ…? 悲劇の主人公のようダ…?」
訂正。それほど哀れではありませんでした。イカレ帽子屋は,馬鹿でした。おそらく馬鹿の主人公でしょう。
「うーん。アリスさぁ,どうやってきたの?」
「え? 私は…その…帽子屋さんに拉致されて,地面に沈んで…」
「おい,イカレ帽子屋。なんでつれてきたんだよ」
放置されて変な世界に入りこんでいたイカレ帽子屋にチェシャ猫が問います。
「わォ!!? やっと僕の出番!!!? やったネ!?」
「ハイ。おつかれー。今日はもう帰っていいよー。出番終わりー。」
「エ!? ちょい待チ!!?」
「うふふ。サヨウナラ(頼りにならない)帽子屋さん」
つっこみグループはうざいものを排除します。容赦はしません。
「分かっタ! 言うかラ!?」
あせる帽子屋さん。非常に間抜けです。
「アリスはね,この世界の終わりを救ってくれる人なんだ」
「「!!」」
先ほどのかぼちゃ帽子の男の子がいいました。いつの間にそこに居たのでしょう。だれも気づいていません。
冷静で吸い込まれそうな眼をアリスに向けて,男の子は言います。
「アリス,四大王族を知ってるかい?」
「ナ!? そこは僕が説明…」
「うっせーんだよ。…クズ」
ちらりと帽子屋を睨み,ぼそっと暗いことを言う男の子。みんなシーン。
「四大王族は,ハート,クラブ,スペード,ダイヤの王族だ。四人の王たちが今のこの不思議の国を制御している。
でも,その四人それぞれにね,悲惨な事故が相次いで…いや,ほぼ同時に起こったんだよ。その御陰でいまこの国は
バランスを崩してきている」
「え…? 大変じゃない…!! でも,それとわたしと何の関係があるの? わたしは勿論犯人じゃないし,犯人も知らないわよ?」
「うん。そうだろうね。君は帽子屋のみが使える特殊能力「等身大変更機能」をつかわないとこの世界では
頭が天井についてしまうし,帽子屋が君に能力を使ったのは今回が初めてだからね」
「え!? じゃぁわたし,今は背が低いの…?」
「うん。」
………。
「きっ気にしてたのにぃぃぃ!!!!!!」
どっかーん!
アリスは身長が低いことを悩む女の子です。よくいます。
でもそのアリスの身長を,帽子屋は1mほど縮めてしまったのです。
そりゃキレます。そして,またまた音声ダイジェストでお送りします。
かちッバコォン!ひゅ〜…キラン!
今回は手短に,帽子屋は消え去りました。『宇宙の果てまで飛んでいけ☆』というノリです。
彼の人気漫画の主人公も「何事もノリとタイミングが重要だ!」といっていましたよね。
知らない方は週刊少年ジャンプを愛読書にしましょう。
万事屋の店員が今日もキメています。
「とりあえずね,王族は乱心して,世界は崩れかけているんだ。
でも,アリスならそれを止められる。アリスは『人間』なんだ。
アリスなら…それ…を……」
ジジ…と男の子の姿が消えてゆきます。体が透けて見え,声も聞こえません。
『そ ろ そ ろ じ か ん だ 。 ま た ね 。 ア リ ス 』
口でそういっているのが読み取れます。
「まっ待って!!わたしは…わたしはどうすればいいの!?ねぇ!」
『ま た ね 。 ぼ く ら の き ゅ う せ い し ゅ 』
「お願い! もうすこ…し…!」
男の子はスッと消えてしまいました。