少女の旅

   目が覚めると,アリスは知らない場所にいました。 絵本の中の世界みたいに,黄緑の芝生と,ピンクのお花が咲いた, 暖かい場所でした。アリスの目の前には切り株があって,どうやら 切り株の横で寝ていたようです。

 

  「…此処は何処かしら…? あの意味不明な餓鬼と,黒マントは一体全体 何処に行ったのかしら。拉致してくれた御礼をたっぷりしなきゃいけないのに」

 

  アリスはキレていました。主人公兼ヒロインにあるまじき口調の台詞になっています。 アドリブにも限度があります。

 

「そこのお嬢さん? 」

 

「あら? 」

 

   切り株の上に,いつの間にか芋虫がいました。煙管をぷかぷか吸っています。 そしてその傍らには,さっきは生えていなかった, 赤色に白い水玉の,とても怪しいきのこが生えています。

 

「うん? 君はどうして此処にいるんだい? 」



「こっちの台詞よ,芋虫さん。さっきまで切り株の上には何もなかったわ」

 

「いやぁ? さっきから此処にいたさ。100年間,私はここで煙管をすっている」

 

「そうだったかしら…? …まあいいわ。わたしはアリス。芋虫さん,此処は何処なの? 」

 

「アリスか。此処は不思議の国だよ。ここに住むものは,100年間人ではない者たちだ。 はやくお帰り」

 

「帰り方が分からないのよ。黒マントを着た男の人を見なかった? その人が,わたしを此処へつれてきたの」

 

   アリスがそう聞くと,芋虫は驚いたように目を見開きました。 そして,こう言ったのです。

 

  「あのイカレ帽子屋(マッドハッター)が? そんなのはありえない」

 

「まっどはったー? 」

 

「そう。黒尽くめでシルクハットを被ったやつだろう?あいつはとんだイカレ野郎だよ。 奴がこの国の外に行くのも100年に一度くらいなのに,外の者を連れて来るなんて…! 100年に一度もあったもんじゃない。今まで一度もない」

 

「じゃあ,芋虫さんたちは,誰か連れてきたこと,あるの? 」

 

「いいや,ないね。連れて来るなんてイカレてる。100年間一度もしたことない」

 

   どうやら話が続かないようです。そもそも自分はどうして芋虫と話しているのか アリスは分からなくなりました。

   そんな二人に近づく黒い影。

 

「あ。発見」

 

「イカレ野郎だ!!」

 

「あ。黒尽くめ」

 

   そのまま黒尽くめのイカレ帽子屋でした。 アリスを見つけてにっこり笑うと,アリスに近寄っていきます。

 

「さあ,イカレた帽子屋さん?わたしを元の世界に戻して」

 

   ものすごい殺気を放ちながら,主人公兼ヒロインは言います。しかし,イカレ帽子屋は そんないけない殺気を気にもせず,思いがけないことを説明します。

 

「え?無理に決まってるじゃン? キヒヒ!! 僕はね,つれてくることは出来てモ,返すことはできないのさア?」

 

「ふふっ。雑魚いのね」

 

 

  ばこっ。

 

 

「いっ痛いじゃないですカ!!?」

 

「うふふ。黙りなさぁい。大人しく,わたしを戻すことの出来る人を,今すぐ此処につれてきなさい」

 

「へ?そんなやつはいなべぶらばっ!!?」

 

   ばこっバシッどがっメキッバキっしゅーどかんどーれーみーふぁーみーれどーげこっげこぐゎ。 アリスがイカレ帽子屋を「血祭りじゃぁぁぁ!!!」と言わんばかりにボコっています。 此処は危ないので,音声ダイジェストでお送りします。

 

「はヒ,わかしまひタ?僕はアリス様を元に戻すことに死力を尽くしまフ?」

 

「…少し疑問符が気になるけど,こんなところね。それよりどうしたのその顔,原型留めてないわよ?なんだか蛙みたい。」

 

「……。」

 

   カラフルだった芋虫は,真っ青になっています。 そうして,アリスとイカレ帽子屋は,てくてくと歩いていきました。 蛇足,きのこの意味は,全く無くなっていました。意味なしのItです。…すみません。